ニュージーランドのライブ市場、新アリーナ建設ブームと音楽フェス中止が同時進行

人口約550万のニュージーランドは、Split Enz、Crowded Houseから近年のLorde、Benee、The Beths、Fat Freddy's Dropまで、音楽輸出大国として知られる。業界メディアIQが2026年7月30日に掲載した市場特集(執筆:Lars Brandle)によると、同国のライブ音楽市場は史上最も活発な会場投資ブームと、独立系音楽フェスティバルの連続中止という二つの潮流に同時に直面している。IFPIの「Global Music Report 2026」によれば、ニュージーランドの録音音楽収入は前年比3%増で、オーストラリア・ニュージーランド地域全体(2025年の総収入6.23億ドル、成長率わずか1.5%)の15.2%を占めている。
新会場ラッシュ:18か月で3つの施設が開業
クライストチャーチの新スタジアム「Te Kaha(OneNZ Stadium)」は建設費NZ$6.83億、収容人数3.8万人規模。クライストチャーチ市議会が保有し、2026年3月に公開された。地震でLancaster Parkが崩壊してから15年が経っての完成となる。同会場で最初に招致された国際公演はRobbie Williams(11月28日)で、Foo Fightersも2027年初めに出演予定。Robbie Williamsはオークランドの5万人規模の会場Eden Parkでも11月24日に公演を行う。同会場の年間コンサート開催上限は12回から32回(大規模12回・中規模20回)に引き上げられた。
ハミルトンの「BNZ Theatre」は2026年初めに開業し、Live Nationが長期運営を担う。ウェリントン市庁舎(Wellington Town Hall)は2027年初めに改修を終えて再開予定で、地下には国立音楽センターと録音スタジオが設けられ、映画『ロード・オブ・ザ・リング』監督のPeter JacksonとFran Walshが資金支援している。業界関係者のGus Sharpは、こうした同時多発的な投資は過去に類を見ないものの、受け皿となる業界自体は脆弱で、投資先の妥当性についても意見が分かれていると指摘。ウェリントンには依然、約1万人規模の会場が不足しているという。
ツアー市場:好調と苦境の二層構造
オークランドのSpark Arena(収容1.3万人)は過去最高の好況期にあり、2026年のLinkin Parkは1万2,736人を動員し、約20年ぶりに同会場の観客動員記録を更新した。館長のMark Goslingは、国際ツアーの物流コストと複雑さが最も根強い構造的課題だとし、ルートが確定する前からオークランドでの開催を働きかけているという。ハミルトンのClaudelands Events Centre(収容6,000人)のGary Taylorは国際ツアー市場の回復を指摘するが、アーティストやマネジメント側の会場選定基準は厳しくなり、ルート設計もより精密になっているとする。Venues WellingtonのMarek Peszynskiは、トリビュート/カバー系公演の市場が飽和しつつあると指摘。Ticketmaster NZのゼネラルマネージャーAnjelica Devoeは、今年の販売実績は前年同期を上回っていると述べている。
海外進出も拡大している。ニュージーランド音楽委員会のInternational GigGuideによると、同国アーティストは昨年、世界で累計2,088公演を行い前年比30%増。163組のアーティストが59か国でツアーやフェスに参加した。年間最多公演数の首位は兄弟デュオBalu Brigadaで海外公演61回。The BethsとPhoebe Ringsも、米国での共同ツアーや、オーストラリア・英国・欧州・アジアを横断するスケジュールで上位に名を連ねた。
一方でコスト圧力も高まっている。Eccles Entertainment共同創業者のHelen Ecclesは燃料費の高騰でツアーの存続が危ぶまれていると指摘。アーティストマネージャーのCushla Astonは、生活費危機が創作活動とツアー遂行能力を直撃していると話す。フルタイムのマネージャーは少なく、中堅・新興アーティストが全国ツアーを維持するのは難しい状況だ。プロモーターPlus1のKurt Shanksは過去18か月を「かなり厳しかった」と表現する一方、話題性のある新人には依然収益機会があるとする。ニュージーランド音楽委員会のCath Andersenは、大物以外の国内公演ではチケットの75%が開演48時間前になってようやく売れる状況だと指摘し、長期的には南島など地方公演の継続可能性に影響しかねないと警鐘を鳴らす。
音楽フェスの二極化
2015年にオークランドのKarangahape Roadで始まった独立系フェス「The Others Way」は2026年開催を中止し、今後の継続も不透明。主催のBanished Musicは財務的圧力、業界コストの上昇、不安定なチケット販売・スポンサー環境を理由に挙げた。タウランガの「One Love」も2026年版を中止し、声明では観客の8割超が会場まで2日間かけて移動する必要があることを理由とした。WOMAD NZも開催中止を発表している。
一方、Live Nation傘下でクライストチャーチで開催される「Electric Avenue」は規模を拡大し続け、毎年完売。次回も出演アーティスト未発表のまま完売した。今年2月のHagley Park開催では、結成50周年と約20年ぶりの再結成となったSplit Enzの出演が話題の中心となった。ウェリントンで初開催された「Ultra New Zealand」は2.3万枚を売り上げ、複数年契約を締結。Rhythm & Vinesは年末にGisborneで開催予定となっている。
政策面の支援とまだ見えない構造的課題
ニュージーランド政府は2025年末、2年間でNZ$7,000万規模の振興策を編成した。うち4,000万ドルは2026年以降の大型国際イベント誘致に、1,000万ドルは既存イベントの支援と国際的な機会の誘致に使われる。Shanksは、この支援策が海外主催者への資金提供を含むことから少なからぬ論争を呼んでいると指摘する。Gus Sharpはまた、オーストラリアのLive Performance Australiaに相当する統一的なロビー団体がニュージーランドには存在せず、政府に寄せられる業界の要望は断片的で、業界内でのデータ共有も極めて乏しいと述べている。ニュージーランドでは2026年11月7日に総選挙が行われる予定だ。