AEGアジア太平洋総裁、次の一手は「音楽専用スタジアム」
AEG Internationalのアジア太平洋総裁John Langford氏が、業界メディアIQの単独インタビューに応じ、AEGのアジア太平洋における会場拡張戦略を語った。Langford氏は今年4月に就任しシンガポールを拠点としており、今回が就任後初期の本格インタビューの一つとなる。氏はトップアーティストが公演都市数を減らし、一都市での連続公演日数を伸ばす傾向にあると指摘し、これが音楽専用に設計されたスタジアムを生み出す可能性があると述べた。
長期滞在型公演と「音楽専用スタジアム」
Langford氏はCeline Dion氏がパリのLa Défense Arenaで26公演を連続して行った例を挙げ、コロナ禍後に見られる「公演都市は減らし、1回あたりの規模を拡大する」傾向を説明した。これを「ファンがバンドを訪ねてくる」モデルと表現し、バンドがファンを追ってツアーをする従来型とは逆だとした。次に注目すべきは、このモデルに合わせて設計された音楽専用スタジアムだという。
氏はまたアジア太平洋地域の構造的な機会にも言及した。香港から飛行機で5時間圏内には世界人口の約半数、約40億人が暮らしており、インド、中国、シンガポール、ベトナム、日本、フィリピンを含む。需要は強いが、大規模ツアーを支えるインフラやシステムの成熟度は欧米にまだ及んでいないという。
一方でLangford氏は無計画な会場建設に警鐘も鳴らした。6万5000人収容で屋根付きのスタジアムを建てたとしても、Taylor Swift氏やEd Sheeran氏、Oasisが来るとは限らない。開発は慎重に、市場主導で進める必要があり、AEGの役割の一つは、政策立案者や投資家に対し、リターンは商業的な利益だけではないことを理解してもらう「教育」にあると強調した。
AEGのアジア太平洋における会場展開
- 2010年:上海のMercedes-Benz Arena(収容1万8000人)――AEGのアジア太平洋における最初の会場
- 2024年:バンコクのUOB Live(収容6,000人)、現地デベロッパーThe Mall Groupと提携
- 2028年末:バンコクの新会場(収容1万8000人)が開業予定
- 日本:名古屋のIG Arena(収容1万7500人、開業からおよそ1年)の実現を後押し
- 2030年:大阪の新会場(収容1万8000人)が開業予定
Langford氏は「ニュージーランドからインドまで」をつなぐ会場ネットワークの構築を目標に挙げ、韓国を「価値のある音楽市場」、インドのツアー市場を急成長中と名指しした。戦略としては、まずいくつかの「アンカー」会場を確立し、アーティストが依拠できる安定したツアールートを作ることで、より高いギャランティや充実した制作仕様を実現し、ファンの接点を広げ、ブランドやスポンサーも参加しやすくするという考えだ。
柔軟性と高付加価値な体験
氏はアジア太平洋のファンが品質と価値を重視する一方、高付加価値な体験には対価を払う意欲もあると指摘したが、既存の会場の多くはそれに応えられていないという。Langford氏はIG Arenaのプレミアムボックスやホスピタリティ設備を例に、その規模感は日本の他会場にはないものだと述べた。アジア太平洋の既存会場の多くは元々スタジアムや体育館として作られ、公演の収容自体は可能でも、ファンやバンドが期待する質を満たしているとは限らないという。
新しい会場のもう一つの鍵は柔軟性だ。氏の例によれば、ロックの公演はアルコール消費が中心の客層だが、翌日のK-pop公演では飲料水の消費が中心になる。会場はバーをグッズ売り場に転用できる必要があり、ホスピタリティスペースも12人用の小さなボックスから150人規模まで拡張できる必要がある。バックヤードの搬入出動線や機材規格も同様にアップグレードが必要で、アジアの多くのローカル制作はツアー仕様で作られていないため、次世代の会場は国際ツアーを受け入れられるものでなければならないという。
業界がアジア太平洋について最も過小評価している点は何かと問われ、Langford氏は観客の規模と熱量だと答えた。「過小評価されるべきでも、見過ごされるべきでもない」。